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「言葉の種」をもらいに

12月2日の京都新聞に気になる記事がありました。

「言葉の種をもらいに」

「言葉の種」というフレーズ、何とも心を突き刺すような表現なんだろう、この言葉が発する何とも言えない雰囲気が、私の興味を誘いました。

そして、言葉の主が、一昨年お亡くなりになられた樹木希林さんであったことに、妙な納得感を得ました。

樹木希林さんが「言葉の種」をもらいに行っていたのは、京都祇園にある「何必館 京都現代美術館」。賑やかな祇園のただ中にあるとは思えない佇まい。余計なデザインをそぎ落としたモダンな5階建ての建物。

希林さんは37年もの間、ここに通い、館長の梶川さんから「言葉の種」をもらい続けたそうです。

実は、私も「何必館」はよく訪れる美術館のひとつです。

もう20年ほど前になりますが、岐阜県の多治見で勤務していたころ、北大路魯山人のお孫さんである北大路泰嗣さんとご縁を持つことができました。お隣の可児市にある无疆窯にも何度かうかがわせていただきました。私が京都の大学出身であること、魯山人自身が上賀茂神社の社家町出身ということで、京都つながりということもあり、いたく気に入ってもらった記憶があります。仕事の関係で多治見を去る時も、貴重な作品を頂戴し、それは今でも我が家の大切な宝物になっています。

そんなご縁もあり、北大路魯山人の作品に興味を持ち、行き着いた先が、魯山人の作品を数多く所蔵している「何必館」でした。

その後は、京都へ行った際は、時間があれば「何必館」に足を運んでいます。

地下の北大路魯山人の展示から始まり、ひとつひとつ選りすぐりの作品を眺めて、その作品の物語を想像しながら、一階ずつ上に上がっていく。そうすることでだんだんと落ち着き、最上階で庭が見えると、改めて贅沢な美の空間であることを思い知らされます。

贅沢な美の中でも、一度だけ見たある景色が今でも私の心にしっかりと残っています。それは、茶室の窓越しから見えた八坂神社の景色。モダンな建物の中にある和の空間。そこから覗く朱色の西門。予定調和ではないアンバランスな景色が私の心を惹きつけました。

そんな素敵な空間に希林さんは37年も通い続け、「言葉の種」をもらい続けてきました。

希林さんは美術のことは全く知らなかったそうです。

真っ白な心のキャンパス、純真無垢な心で絵に向かい合えたからこそ、数多くの「言葉の種」をもらうことができたのではないでしょうか。

彼女の心を動かす絵のチカラとはどのようなものなんだろうか。俳優として、表現者として、ひとつ一つの言葉のチカラ、重みを知っているからこそ、自分にふさわしい言葉を見つけるために、探しに来たのだろうか。

彼女にとって、ここは表現者として生きるための命ともいえる「言葉の種」が至る所に眠っていたのかもしれない。ここにきて、言葉の種をもらい、自分の存在を確認し、また東京へ戻る。

その種は彼女の身体の中で時間をかけ熟成され、表現者として発するにふさわしい言葉として、感情とともに表現されたのかもしれない。

「言葉の種をもらいに」というフレーズも、長年通い続けた中でもらった種が、彼女の中で熟成され、今まさにこの瞬間というタイミングで発せられたのかもしれない。

次に訪れたとき、私は私なりの「言葉の種」を見つけることができるだろうか。

「言葉の種」、このフレーズに、底知れぬ可能性と力強さを感じます。

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